※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
今年のGWはピエールも私もまとまった休暇をとることができ、あこがれの双六岳周辺ツアーに出掛けることになった。双六小屋脇のテント場をベースに周辺を滑りまくるという定番のパターンで、初日にベースまで登ってしまえば、あとは普段の軽装日帰り山行と変わらない。
しかしその初日が問題。ここ数年は軽装備の日帰りスキーが中心で、重い荷物を背負っての山行なぞとんとご無沙汰している。こんな状態で果たして標高差1500m、コースタイム7時間半もの長丁場をこなすことができるだろうか。パッキングを終え荷物を担いでみたところでその思いは決定的になり、結局のところ、登る直前になって急遽テント泊をやめて山小屋泊まりに変更になるのであった。我々も名実ともに中年登山者の仲間入りを果たしたようだ。
朝6時、新穂高温泉に到着。登山口のかなり手前にある無料の村営駐車場に車を止める。もっと先にも幾つか駐車場はあるのだが、4時間500円もの料金をとるので登山者にはちょっと厳しい。そのためかこちらの駐車場は夏季シーズンにはすぐにいっぱいになるらしいが、この日はだいぶ混雑しているものの、まだ若干余裕はある。
ここで双六小屋に電話し、最終的にテント泊をやめて小屋泊まりすることに決定。テントやシュラフといった泊まり道具をザックから降ろす。素泊まりゆえ一番重い食料を降ろすわけにはいかないが、それでもカサは減りだいぶ気は軽くなる。
靴はどうしよう。しばらく雪のない車道が続くため、できれば普通の靴で歩いていきたい。実際そうしている人も多いらしいが、スキー靴を持って行く手間を考え、結局初めからスキー靴で歩くことにする。
そんなこんなで準備に手間取り、7:45にやっと出発。
駐車場からバスターミナル手前までは河原沿いに歩行者用の近道がある。車道と合流したあとは温泉街を通り、30分程で街はずれにあるホテルニューホタカの脇に出る。この先が車止めのゲート。
そこからさらに15分ほど歩くと早くも雪が続くようになったので、シール歩行に切り替える。日当たりの良い右岸に渡ったところでいったん雪は途切れるが、すぐにまた続くようになり、以降はずっとシールで歩くことができた。
9:45 やっとワサビ平小屋に到着。この辺りはブナの原生林が素晴らしく、長い林道歩きにうんざりした心を和ませてくれる。
小屋から40分ほど歩き(普通は20分ほど。下抜戸沢のデブリで手間取った)、下抜戸沢を越えると一気に視界が開け、弓折岳を中心にしたカール状の大斜面が見渡せるようになる(P5)。帰りはこの大斜面を滑ってこれるのかと思うとワクワクするが、これからあそこまで登らなければならないと思うと気は思い。
左俣谷に架かる立派な橋を右に分け、そのまま右岸を真っすぐ進んで小池新道に入る。ここからやっと登りの開始だ。
しばらくは広い谷の右岸をトラバース気味に登っていく。まだ傾斜は緩いが、奥抜戸沢の辺りはデブリがひどく、歩くのに苦労する(P7)。
秩父沢、秩父小沢を越え(雪で埋め尽くされているので沢を越えるといったイメージはない)、標高1950mのイタドリ原付近でさすがに疲れて昼休憩。といっても本格的な登りはまだまだこれからである。
さてここから先は大ノマ乗越を越えるか、それとも弓折岳経由で行くか。この時期は大ノマ乗越経由の方がより一般的のようだが、そちらは稜線を越えてからいったん向こう側へ300mほど下り、その後再び双六小屋まで登り返す必要がある。当初は多少でも滑れるという理由で大ノマ乗越経由で行こうと考えていたのだが、もはやそんな余裕はない。ちょっとでも高度を落として登りの労力を無駄にするのはイヤだ。それにここからの場景では、大ノマ乗越の方は長々と続く登りルートが一度に見通せてしまうのだが、弓折岳ルートの方はとりあえず真正面に鏡沢の短い急斜面が見えるだけ。あそこを越えてしまえばあとは意外と楽なんじゃなかろうかと、朝三暮四のサルなみの考えで弓折岳ルートを選ぶ。
まずは鏡沢の急登。短いがかなりの急傾斜で、板を担いで登る。このまま沢を登っていくと夏道と合流し鏡平山荘にたどり着くのだが、残雪期はそんな大回りはせず、途中から弓折岳へ取り付く。南尾根は狭く急傾斜で登りにくそうだったため、尾根の東側の窪んだ斜面を登る。
登り始めはまだまだ余裕。稜線まで残り500mはあるはずだが、それほどあるようには見えない。1時間もあれば登れるんじゃないかと余裕をかますが、無論それは気のせいだった。下から見えるスカイラインが稜線であるわけがなく、登っても登ってもまだまだ先が続く。おまけに雨までちらつき始め、いよいよ余裕はなくなる。今日1日天気はもつと思っていたのだが、これは本降りになる前に小屋に着かないと。
14:55 やっと稜線に到着。弓折岳のほんのちょっと左手だ。さすがに風が強く、雨(というよりみぞれ)も強くなってきたのでカッパを着込む。
ピエールは珍しくだいぶ遅れて到着。腹痛で苦しんでいたらしい。
ここから先は稜線上を進む。もはやちょっとしたアップダウンが残っているだけとはいえ、距離的にはまだ少しある。天気が悪いために辺りはもう薄暗く、そのせいで気が焦る。どうも旅先に出ると原始人モードになり、寝床を確保する前に暗くなると時間に関係なく不安になってしまうのだ。
さいわい稜線上は思ったより平坦で、予想以上のペースで歩くことができた。
2622点の小ピークを越えてちょっと下ったところで稜線をはずれ、双六小屋に向け夏道を下降気味にトラバースしていく。ここからは楽勝かと思いきや、樅沢岳西斜面のトラバース・ゾーンは一面のハイマツで覆われ、ハイマツの中の細い道を板を担いで歩かなければならない。そう疲れるわけではないが、いい加減うんざりである。
16:30 やっと双六小屋に到着。ずぶ濡れのザック(カバーを付け忘れてた)を処理するのに手間はかかったが、なんといっても雨の日の山小屋というのはありがたいものである。
ピエールは山小屋泊が初めてとのことで、自分もまた季節はずれのガラ空きの小屋にしか泊まったことがない。したがって普通の山小屋の様相というのがまったくわからないのだが、以下、そういう素人の視点で見た双六小屋の情景を……
今回は(1)の理由で山小屋泊を選んだわけで、装備を減らしてもなお登りに苦労したぐらいである。しかしそれでも他人に気兼ねせず気ままに過ごせるというテント泊のメリットには代え難く、今回くらいの行程であれば、道中苦労してもテント泊のほうがいい。(縦走型スキーツアーとなるとまた別だが)
(2)(3)もありがたいことではあるが、山小屋を選ぶだけのポイントにはならない。厳冬期ならともかく、この時期の寒さはたかがしれてるし。
(4)(5)は山小屋でなくてもテント場であればたいてい施設はそろっているものの、この時期は雪に埋もれて使用できないところも多い。双六小屋脇のテント場もそのひとつ。テント派からは「雪のある時期に水場はいらん」とか「トイレなんてなんとでもなる」という声が上がりそうだが、やはりこの2つがあると優雅に暮らせる。実は個人的にはこの2つが重要なポイントになり、この点において、次回また来ることになっても双六小屋泊まりを選ぶことになるだろう。
ちなみにピエール君は自称「潔癖性」とのことで(ワシの車はゴミ箱同然に扱うくせに)、誰が寝たかわからん布団に寝るのは勘弁ならないらしい。なので2度と山小屋には泊まらないと言っているが、彼のことだからどうせその時になれば意見は変わる。