※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
初心者には適切なこの山であるが、あまりの手頃さにゲレンデ感覚でやってくるスキーヤーやボーダーも多く、昨年は遭難者が続出した。それゆえスキー場の管理も厳しくなるのではないかと思い昨年は行くのをやめていたのだが、スキー場側も自粛要請の立て札を立てる程度で、相変わらず多くのボーダーたちが入山しているらしい。
今シーズンは足慣らしが不十分でまだ本格的な山には入りたくない。そんなこんなで、このお手軽ルートへ行ってみることにする。
一昨年滑ったのは荒砥沢滑降というノーマルルートの一つだが、快適なのは上部だけで、狭い沢の滑り、そして戻りの林道歩きは決して楽しくない。しかし荒砥沢を挟む南北の尾根はともに快適に滑ることができそうで、尾根へ登る労苦をいとわなければもっといろいろ楽しめそうである。ということで、今回はバリエーションルートを設定してみる。
珍しくも朝早く、営業開始直後にリフトに乗り込むが、一番上の第5ペアリフトが動いていない。運行開始の見込みを聞くとすぐ動くとは言うものの、まだ準備運転すらしていない。待つのがイヤなので歩いて登ることにする。
1/3ほど登ったところでリフトが動き出す。これから準備運転かと思いきや、すぐさま人を乗せ始めた。続々と人を乗せたリフトの脇を黙々と歩く。無駄とは思わないがちょっと恥ずかしい。
20分ほどでリフトトップへ。ここからが本当の登山開始だ。
昨晩そこそこの新雪が積もったようで、先行の集団がラッセルして立派なトレースをつけている。このままだとすぐに追いつきそうだ。社交性の乏しい私は追いついて「ラッセル代わりましょか」などと声をかけるのも面倒なので、ちょっと離れた斜面を登ることにする。
9:55 前武尊山頂着。体力不足の身での終始ラッセルではあったが、それでもあっと言う間だ。
頂上でちょっと休憩している間に、次から次へと大集団がやってくる。さすがお手軽人気ルート。斜面が荒れないうちにさっさと下りましょう。
まずは剣が峰下のコルまで、木の間や細い尾根を慎重に下る。そこからが滑りの本番だ。
ノーシュプールのきれいな斜面を一番に滑りたかったが、残念ながら先行のパーティーに先を越されている。それでもまだ斜面はそう荒らされてはいない。2年ぶりですっかり忘れていたが、短いながらもここは超一級の斜面なのだ。アクセスが短いので太陽の十分に照りつけない早い時間帯に滑れるのもいい。テレマーク上級者になったかのごとく、踊るようにショートターンを決める。
標高1750m地点で左にトラバースして荒砥沢本流へ。通常ならここから登り返すかそのまま沢を滑るかだが、時間はまだ早い。予定通りなんちゃってルート開拓を始めましょう。
まずは家の串尾根。シールをつけ、手頃な枝尾根にとりつく。
途中まで登ると荒砥沢の全景が良く見渡せるようになる。剣が峰下をトラバースしたのだろう、本流を上からすごい勢いで滑り降りてくる集団もいる。彼らは1750m地点から登り返すようだ。
40分ほどで稜線へ。しかしちょっとした雪庇があり、なかなか尾根の上に上がれない。尾根に上がらずともここからトラバース気味に滑っていってもよいのだが、せっかくなので尾根上からの景色も見たいではないか。登れそうなところを探し、崩落しないよう少しづつ雪を崩してなんとか尾根の上にへずり上がる。
尾根の上は――たいした風景ではなかった。しかも1~2mの単位でデコボコに波打っている。これは滑れそうにない。しばし強引に尾根上を進むが、さすがにつらい。尾根上はあきらめ、トラバース気味に滑り降りることにする。
雪庇の小さなところから慎重にドロップし、荒砥沢上部に劣らない見事な斜面を滑り降りる。真下に向かって滑れないのが悲しいところだ(真下に降りても正規ルートに合流するので、つまらないというだけで問題ないのだが……)。
ブナの疎林帯のすばらしい斜面だが、日当たりも良く、下に降りるにつれだんだん雪が重くなってきた。まるで春のようだ。
林道合流点まで降り、再びシール。通常ならここから尾根を大きく迂回して林道歩きをダラダラ続けるところだが、本日は尾根を越えて直接十二沢側へ滑り込むことにする。滑りを楽しめるだけでなく、林道を大きくショートカットできるという一石二鳥のルートだ。
まずは林道をちょっとだけ進み、一昨年目をつけていた斜面を登る。林道はトレースが全然なく、このままゲレンデまでラッセルを続けるとなるとかなり悲しい目にあうところだった。
30分ほどで尾根の上へ。さて滑降だとシールをはがしていると、ルート上でもなんでもないこんな所へ単独のボーダー氏がやってくる。トレースを見て後からついてきたようだ。う~ん責任は持てないよ。
ともあれ最後の滑降。これまでのブナの疎林帯に比べれば若干木は密集しているが、問題になるほどではない。思ったより快適に滑ることができる。
ちょっと下ってすぐに林道合流。相変わらずトレースはないが、ここからならゲレンデまでそう遠くはないはずだ、そう苦でもなかろう。
そう思ってシールをつけ林道を歩き始めるが――なんかおかしい。すぐに十二沢合流点のカーブに出るはずなのに、そんな気配はない。おかしいと思ってGPSを見ると、林道よりだいぶ高い位置にいる。思い出した。目指す林道の上にもう一本林道があるのだった。
だいぶ無駄をしてしまったがまあいい。このまま左下に滑って行けばちょうど十二沢と林道の合流点に出るはずだ。相変わらず後ろをついてくるボーダー氏に道を間違えたことを謝って正しい方角を教え(そんな義理はまったくないのだが)、シールを付けたまま林道に向かって滑り出す。
すると――右下の方から若者たちの歓声が聞こえてくる。なんだこれは。やがてすごい勢いで滑り降りてくるボーダーたちが木々の合間に見えかくれする。なんだここは。
多数のシュプールでほとんど道路のようになった沢に降り立ち、やっと事態がわかる。十二沢のコースだ。こちらのコースはてっきりスキー場上部でゲレンデに戻るものと思っていたが、ここまで降りてこられるのだ。しかもこれだけ多くのなんちゃって山ボーダーたちが。
林道との合流点、そしてゲレンデへ戻る林道へはボーダーたちですごいことになっている。ゲレンデへ戻るまでのたかだか10分の間に、30人を超えるボーダーたちを追い抜くことになった(誇張ではない。本当の数だ。ゲレンデにたどり着いて休んでいるボーダーを加えると、それこそ50人を超える数になっただろう)。