※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
今週末の谷川エリアは天気がいいらしい。雪崩ネットワークの情報を見ると比較的雪も落ち着いているようだ。それならばと、再び武尊山に登ることにする。1月末は南面の川場谷を滑ったので、今度は東面の西俣沢。このコースは前武尊の荒砥沢・十二沢ほどメジャーではないが、記録を見るとそれなりに滑られている。自分は今回が初めてだ。
西俣沢を滑る場合、普通は下山口に近い武尊牧場スキー場から登山道沿いに登る。車2台でオグナ武尊スキー場から登るという手もあるが、今回は一人なのでそれはできない(シャトルバスもあるようだが、時間が限られる)。
ただ、武尊牧場スキー場は営業開始が遅い。このコースは行程が長いのでできれば早立ちしたいところだが、8時30分まで待ってリフトに乗るか、もしくは営業開始前に係員の目を気にしながらゲレンデ内を登る必要がある。それに駐車場と下山ルートが沢で隔てられているため、駐車場まで戻るのに手間がかかるというマイナス面もある。
そんな中、一風変わったルートをとっている山行記録を見つけた。下山口の逢瀬橋から家ノ串東尾根経由で登るというものだ。検討すると、なるほど悪くない。どうせリフトを利用しないのなら、武尊牧場スキー場から登るのよりよほど効率的にみえる。家ノ串山直下のトラバースがいやらしいが、降雪後でなければなんとかなりそう。今回はこの尾根から登ることにしよう。
車は逢瀬橋手前の路側帯に置く。思っていたより広く、数台以上停められそう。先行は3台。1台をここにデポし、もう1台でどこかに行くパーティーもいる。たぶんオグナ武尊から登るのだろう。
7:28 1024m 逢瀬橋。
まずは西俣沢右岸林道をシール登行。昨日までのシュプールがかすかに残っているだけで、さすがに登りトレースはない。みんな武尊牧場かオグナ武尊から登っているようだ。
10分ほど歩くと、西俣沢の対岸に武尊牧場スキー場の駐車場が見えるようになる。その手前に堰堤。スキー場の駐車場に車を停めた場合、帰りは堰堤の上を歩いて駐車場に戻ることができるようだ。観察すると、大変そうだが無理ではない。逢瀬橋まで下って車道を登り返すより、はるかに時間短縮になるだろう。
7:42 西俣沢右岸林道1138m。
ここで林道を離れ、家ノ串東尾根へつながる枝尾根に取り付く。枝尾根上までは急傾斜で、この時間は雪がまだカチカチ。せいぜい40mほどの登りだが、グリップが利かずに苦労する。
尾根上に出ればあとはすっきり。木もそれほど濃くないので、シールで真っすぐ登ることができる。
8:45 家ノ串東尾根1473m。
ここで主尾根に合流。ここからは立派なブナが点在する疎林帯となり、勾配もほどよく緩やかになる。ここを滑ってもかなり楽しめそうだ。
1700m辺りから植生は針葉樹林に変わり、樹間がちょっと狭くなる。おまけに尾根は狭まり、傾斜も多少増す。といってもここまでが良すぎただけ。まだまだ普通にシールで登っていける。
1844mの小ピークでいったん急斜面は終了。前方に前武尊~家ノ串山~武尊山の稜線がきれいに見えるようになる。この先しばらくは細尾根ながらも傾斜が緩く、楽に歩けそうだ。
しかし、いざ歩いてみるとかなり面倒。この手のヤセ尾根によくあることだが、雪面が大きく波打っているのだ。背丈ほどの段差があり、シールでは乗り越せないところも多い。その場合は右斜面から巻くことになるが(左斜面は切れ落ちていて無理)、傾斜がきつくて木も密生しているので、そう簡単ではない。ちょっと進むのにもだいぶ時間がかかる。
10:43-10:50 家ノ串東尾根1926m。
東尾根はここまで。ここからは北東斜面をトラバースし、家ノ串山北側の稜線を目指す。本当はこのまま家ノ串山まで登ってオグナ武尊からの一般ルートに合流したいのだが、この先、東尾根は崖のような急斜面となり、登るのが難しくなるのだ。
このトラバース斜面が本日の核心。ところどころ木の生えた箇所もあるが、いかにも雪崩の通り道といった無木立の沢筋を2つ通過する必要がある。刺激を与えないよう、慎重に一歩一歩ゆっくり進む。
とりあえずメインの沢筋を無事通過し、二つ目へ。この沢筋を抜けたところが家ノ串山北東の枝尾根で、そこまで出ればひとまず安心だ。
しかし沢筋から枝尾根に上がるところはちょっとした段差があり、それを乗り越える必要がある。膝丈ぐらいとはいえ、雪庇状になっていて、安易に登ろうとするとすぐに崩れそうだ。
ちょっと下ったところは段差が低くなっているので、そこから越えることにしよう。ここまでは慎重に一歩一歩進んできたが、この先は下向きにトラバース気味に滑り、段差を潰して一気に越えてしまおう。
しかし――これが大きな誤り。
段差を越えるところで転倒。気がつくと地面が動いている。雪崩を起こしてしまったのだ。
始めのうちは頭を起こしたりする余裕もあったが、やがて雪に飲み込まれ、グルグル回転しながら転がり落ちていく。これはダメだ、死ぬヤツだ。
懸命にもがいて頭を雪の上に出そうとするが、何もできない。もはやなすがまま、こうやって死んでいくのかと客観的な気分になって思うだけ。
しかしだんだんとスピードが落ちていき、やがて上半身が出た状態でゆっくり停止する。奇跡的に助かったようだ。
途中、どこにもぶつからなかったのは幸いだった。かなりスピードが出ていたので、木や岩にぶつかっていたらただでは済まなかったし、止まった途端に雪が覆い被さり、身動きできなくなっていただろう。
すり鉢状の地形で、傾斜がだんだんと緩やかになっていたことも幸いした。今回は雪と一緒に自然にスピードが落ちていき、末端の堆積区に至る前に停止したので、たいして体が埋まらずにすんだようだ。
後でGPSのログを見ると、40秒弱で標高差150mほど滑落している。これは体が止まった場所で、デブリはさらに100mほど下まで流れている。これで無事だったのはラッキーだ。
11:05:40-11:16 カラ沢1786m(雪崩停止地点)。
雪崩が完全に落ち着いたのを確認し、体、装備をチェック。怪我はまったくといっていいほどないようだ。顔の左半分はヒリヒリするが、下山には差し支えない。
装備は、ストックや帽子、サングラスのほか、スキー板も両足とも失っている。ビンディングだけでなく流れ止めまで外れるとは思わなかったが、これは逆にラッキーだった。このおかげで雪に埋まらずに済んだといえる。
ともあれ、あとはストックなしのツボ足で下山するしかない。
そうなると、沢より尾根のほうが潜る量が少なくて歩きやすいかもしれない。ただ、往路の家ノ串東尾根まで登るのはけっこう手間がかかる。それにちょっと歩いたところ、膝下まで潜りはするが、思ったほど大変ではない。しばらく降雪がなかったはずなので、沢の中も新雪はたまっていないだろう。これなら無理に尾根に上がる必要はないのではないかと思い、このままカラ沢を下ることにする。
15分ほどで沢底へ。ここで通常の西俣沢滑降コースに合流する。いつ誰かが滑ってきて、この格好悪い姿を見られるかもしれない。
沢底は思った通り雪がたまっておらず、新雪ラッセルは避けられる。しかしひどい腐れ雪で、ズブズブと潜っていく。ただでさえストックがないのに、これはつらい。新雪ラッセルより遥かに疲れる。
もともとこの先は沢が狭まるため、1550m辺りで沢を出て、右岸を高巻いて隣のオス沢に移るつもりだった。もはやこの滑降予定ルートにこだわる必要はないが、やはり沢から出て右岸を歩いた方が効率は良さそうだ。
11:59 西俣沢1528m。
ここで沢底を離れて右岸に上がり、トラバースを続けてオス沢を目指す。1550m辺りの等高線を維持して小沢や枝尾根を巻いていく形だ。距離は長くなるが、腐れ雪の沢底を歩くよりもはるかにマシだろう。
1時間ほどでオス沢へ。急斜面を下り、対岸の平坦地に出たところで休憩する。ここまで緊張のためか食事をせずとも平気だったが、そろそろエネルギー補給をしておかないと。
しかし、おにぎりを口にしようとしたところ、顎が痛くてとてもじゃないが食べられない。あまり意識していなかったが、顔の左側を強く打ったようで、顎関節も痛めたようだ。食事は諦め、このまま歩き続けるしかない。
引き続き、オス沢右岸斜面を東向きにトラバース。このまま少しずつ標高を下げていけば、西俣沢と再合流する辺りで林道に出られるはずだ。
13:55 1228m オス沢・西俣沢出合。
ここまで降りれば一安心。林道はすぐ目の前、西俣沢を渡ったところだ。
しかし西俣沢は水が出ていて容易には越せない。ちょっと上流に橋があるようなので、そちらから回り込むしかない。
たいした距離ではないのに、これまで以上に潜って苦労する。途中にスノーブリッジがあったので、そこから渡ることにする。ツボ足だと踏み抜かないか心配だったが、なんとか大丈夫だった。
林道に出たらあとは楽勝――と思いきや、これまで以上に厳しかったのがこの林道。
雪がズブズブで、膝上まで潜る。この時期にここまでひどくなるか、というくらい水分を多量に含んだ湿雪で、一歩一歩の重さが半端ない。
振り返ると、まるで湿地帯でも歩いたかのように水を含んだ穴ボコだらけ。この後、ここを滑ってくる人には邪魔で仕方ないだろう。そこはまぁ勘弁してもらうしかないが、少なくともこんな風に歩いている姿を誰にも見られたくない。他のパーティーが滑り降りてくる前に車まで戻りたいものだ。
――が、そんな願いもむなしく、ゴール直前で2つのパーティーに追い越される。どうせならもっと手前で抜いてくれれば、多少はラッセルが楽になったかもしれないのに……。
15:12 1024m 逢瀬橋。
なんとか到着。2kmちょっとの林道で1時間以上かかったことになる。最後はもうヘトヘトで、足を踏み出すのもやっとなぐらいだった。これ以上距離があったら日のあるうちにたどり着いていたかわからない。
ところでこの時点では疲れがたまっていただけだったが、しばらくすると体の節々が痛み出し、特に両足はろくに動かせなくなった。車の乗降もやっと。これは雪崩ではなく、その後の下山の影響だろう。明日が日曜でよかった。
(2004/1/18)
道の駅内にある立派な施設。混雑するとのことだが、今回14時頃行った時には大丈夫だった。常にこの程度空いているのであれば、もう少し高得点を与えてもよい。
雪の中の露天風呂は、なかなか。
(2017/3/4)
いつからかわからないが料金が800円→650円に改訂されていた。
この日はスキーハイシーズンの土曜夕方ということで大混雑。出る頃には広い洗い場なのに10人ほどの待ちができていた。