※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
ここ2年ほど富士山は残雪が非常に多く、6月になってもだいぶ下まで滑れたらしい。しかし結局行く機会はなく、思いを募らせたままシーズンは終わってしまった。
今年は残雪が多いという話を聞かないが、行きたいという気持ちは去年のまま残っている。どこまで滑れるかわからないが、久しぶりに行くことにしよう。まだ富士山を滑ったことのないダマも乗り気だ。
主な滑降ルートは富士宮・須走・吉田の3つ。今回は時期が遅いため、雪渓がもっとも残っているであろう吉田ルートを滑ることにする。このルートは北向きのため時期が早いと凍結して危ないこともあるが、6月ともなればさすがに大丈夫だろう。
7:35 2297m 富士スバルライン五合目駐車場。
まずは板を担いで雪のない登山道を歩く。
これまで富士山には5月前半に登ることが多く、6号目までは雪が残っていたので、テレマークシューズのまま歩いていた。しかし今日はそこまでの残雪を期待できないため、スニーカーを持ってきている。そのスニーカーは、登山靴要素のない普通のもの。しかも底はツルツル。本当はもう少ししっかりした靴が良かったが、手頃な軽登山靴がなかったので仕方ない。
スキー靴は、ビンディングに付けた状態でスキー板ごとザックに括り付ける。一般的なやり方だが、ザックが重くなるし、安定もしないので個人的にはあまり好きではない。少しでも荷を軽くしようと今日は軽量板を持ってきたが、それでもつらいことに変わりはない。
周りを見ると重そうなファットスキーを背負っている女性なんかもいる。自分にはとうてい真似できない。ともかく滑りは二の次、山頂までいかに楽に登るかだ。
六合目まではほとんど勾配のない整備された道で、足慣らしにはちょうど良い。普通のスニーカーでも何の問題もなく歩くことができる。
8:06 2390m 吉田口六合目。
本格的な登りはここから。
時期が早ければここから吉田大沢の雪渓を登れるのだが、この辺りはすでに雪がなく、雪渓が現れるのはまだまだ上。引き続き登山道を登ることになる。
富士山の登山道は場所によってギザギザの火山岩の上に作られており、底の薄いスニーカーやスキー靴では登りにくいこともある。しかしこの辺りの登山道はよく整備されており、凍結もしていないのでスニーカーで問題なく登れる。
10:30 3205m 吉田口八合目白雲荘。
登山道のすぐ右手が吉田大沢で、復路はこの大沢を滑ることになる。
吉田大沢はすでに七号目上部から雪渓がつながっていたが、ここまでは登山道を使ってきた。登山道のほうが歩きやすく、かつ雪渓に降りるのがちょっと大変そうだったためだ。
しかしだんだん登山道上も雪が付いていることが多くなり、スニーカーでは登りづらくなる。重いザックを担いでいるのもつらく、せめてスキー靴だけでも下ろしたい。ちょうどこの山荘の横からすぐ雪渓に出られることもあり、ここでアイゼンを履き、雪渓を登ることにする。
ピエールも同様に雪渓歩きを選択。ダマはちゃんとした登山靴を履いてきており、まだ登山道を登るとのこと。山頂で落ち合うことにし、ダマとはいったんここで別れる。
しかしこの雪渓登り、選択ミスだった。
もう少し時期が早ければみんな雪渓から登るため、ツボ足の跡がしっかり残り、階段のように楽に登っていける。しかしこの時期はほとんどの人が登山道を使うようで、雪渓上はトレースがまったく残っていない。
せめて雪が柔らかければ、キックステップで足をフラットにして登っていける。しかし雪は硬く、つま先を引っかけて登るか、ガニマタもしくは斜めに登るしかない。前者だと長い距離を歩けず、だからといって後者は苦手な登り方。自分は足首が固いためか、このように足首が伸びる形になるのはとても苦手なのだ。
それもあって雪渓に降りてもペースは上がらず、疲れは増すばかり。
そろそろ九合目というところで、吹き下ろしの風に乗って上からダマの声が聞こえてくる。すでにお鉢上に到着したようで、我々を見ていないか他の登山者に聞いている。ここにいるよと叫ぶが、こちらからは届かない。まぁほどなく落ち合えるだろう。
しかしこの辺りから足は急激に重くなり、残り一合を登るのにえらい時間がかかる。今シーズンはそこそこロングコースをこなしてきたのだが、やはり富士山は甘くない。
12:54 3702m ようやくお鉢上に到着。
ダマの声が聞こえてからだいぶ時間がたっており、さすがに姿は見えない。たぶん吉田口山頂で待っているのだろう。
しかし通りがかった人に聞くと、それらしき人が反対側の白山岳に登っていったとのこと。なんでそんなところにと思いつつ、自分もそちらに向かう。
白山岳への斜面は雪があまり付いていない。アルミアイゼンで火山岩の上を歩くのは避けたいところだが、外す手間を惜しんでそのまま登る。まぁこの程度なら歯が減るようなこともないだろう。
15分ほどで白山岳。山頂には確かにダマに似た人がいたが、近づいてみるとまったくの別人。時間も体力も無駄に使ってしまった。
気を取り直し、ダマが待っているであろう吉田口山頂へ向かう。
13:28-14:07 3708m 吉田口山頂。
ダマはやはりここにいた。遅れて登ってきたピエールとも合流し、小屋の陰でゆっくり休憩する。
時刻はもう14時。遅くとも昼前には滑り始められると踏んでいたが、スタートが遅れたこともあり、だいぶ遅くなってしまった。
さて下山。
いつもは吉田大沢源頭から滑り出すのだが、見ているとほとんどの人がこの吉田口山頂から東斜面を滑っている。歩いて吉田大沢源頭まで戻るのも面倒だし、我々もここから滑ることにしよう。
この東斜面と吉田大沢は登山道のある尾根で分断されているが、九合目上部で雪が繋がっていたので、そこで吉田大沢に合流できるだろう。
山頂直下は露岩が多いため、20mほど下ってスキーを履き、そこから滑降開始。
吉田大沢はほどよい締まり雪だったが、この東斜面はバリバリのクラストバーン。今日の3ピン軽量テレマークでは太刀打ちできず、うまくターンできずに何度も転倒する。滑りは二の次であえて軽量板を持ってきたわけなので文句は言えないが、「やっぱテレマークは大変だな」なんて話し声が聞こえてきて悔しくなる。
ダマもスピードに乗ったところで大転倒。何回転もして勢いよく転げ落ちていく。ギャラリーからは心配の声ではなく歓声が上がるほどの転びっぷりだ。
九合目上部で予定通り尾根を越えて吉田大沢へトラバース。
しかしダマたちに事前にルートを説明しなかったのは失敗だった。ピエールはしっかりついてきたが、ダマは気づかず、はるか下まで滑っていってしまう。
さてどうしようと思うが、たくさんの人がこの斜面を滑っているわけだし、まだ下で合流できるのだろうと、さほど焦らずにダマを追う。この時点では、これが須走ルートだということにまったく気づいていない。
ところでこの東斜面、雪質はイマイチだが、吉田大沢よりはるかに広く、雄大な景観の中を思いっきり滑ることができる。
上部はクラストして滑りにくかったものの、だんだんと雪は柔らかく、滑りやすくなっていく。とはいえ滑りにくい板を履いていることもあり、満足いく滑りはなかなかできない。
八合目辺りまで下ると、雪渓は枝尾根を挟んで2つに分断される。右側の雪渓のほうが広くて下まで繋がっているので、本来はそちらを滑りたいところ。しかし我々は吉田口に戻る必要があるので、左側の雪渓を滑る。あとで調べると、こちらは滝沢というらしい。
14:43 滝沢3184m。
滝沢の雪渓はここで終了。右手に登山道が見えたのでそこから下ろうとするが、ふと疑問が湧いて思いとどまる。
――吉田ルートは左側のはず。この道はいったいなんなのか。
ここでやっと気づく。これは須走ルートではないか。このルートの存在を完全に忘れており、須走口へ下山する人に釣られて滑ってきてしまったのだ。
ちなみに吉田ルートは登山道と下山道が分かれており、間違って須走ルートに入ってしまったとはいえ、この場所はまだ下山道からそう遠くない。なので普通の登山であればたいしたロスにはならないのだが、スキーの場合はまた別。下山道は雪がないため、そこから降りると以降もずっと板を担いで下山することになるのだ。ちょっとでも下まで滑ろうと思ったら、どうしても吉田大沢に出る必要がある。
吉田大沢までは距離的にはそう遠くない。しかし登山道も雪もなく、火山岩がゴロゴロした砂礫の斜面をトラバース気味に歩く必要がある。テレマークシューズではなおさら面倒で、思った以上に時間がかかる。
15:16 2998m 八合目太子館下部。
ここでやっと吉田ルートの登山道に合流。吉田大沢の雪渓はこのすぐ下。10mほど道のない岩場を下る必要があるが、なんとか歩いて降りられそうだ。
雪渓はかなり汚れており、小石もゴロゴロしている。板はボロボロになりそうだが、こんな板はどれほど傷ついても惜しくない。雪渓はまだ先まで続いていることだし、可能な限り雪渓を滑り続けることにする。
ピエールも同様に雪渓滑りを選択。ダマは板が新しいこともあってか、このまま登山道を歩いて下山するとのこと。なのでここから別行動。
岩場を10分ほど下って雪渓に出たら、あとは再び雪渓の滑走。初めから吉田大沢を滑っていればと、今さらながら後悔する。
滑り出しはまだ雪面がきれいだったが、やはり下部は小石や土砂だらけで快適には滑れない。それでも登山道を歩いて下るのに比べればはるかにマシ。これくらいは良しとしよう。
15:44-16:06 2741m 七合目トモエ館横。
ここで雪渓は終了。ここからならさほど手間取らずに登山道へ戻ることができる。
七合目トモエ館に出たら、あとは板を背負って登山道を下るだけ。スニーカーを持ってきているのだから本来はここで履き替えるべきなのだろうが、なんだか面倒くさく、それに荷物が重くなるのもイヤ。この先は比較的登山道が整備されていることだし、このままテレマークシューズで歩いてしまおう。
――と自分で選択したことではあるが、やはりテレマークシューズで登山道を下るのはつらい。さらには途中で膝が痛み出し、軽くビッコを引いて歩く羽目になる。
以前も思ったことだが、富士山のスキーは、せめて六号目まで雪がないと、楽しさよりつらさのほうが勝ってしまう感じだ。
16:47 2390m 吉田口六合目。
ここからは先は平坦になって歩きやすくなる。しかしスキー登山として余分であることに変わりはない。
途中、後ろからダマが黙々と歩いてきて、何も言わずにそのまま追い越していった。ピエールは何か悪いことでもしたかと気にしていたが、たぶん登山道歩きに嫌気が指していただけだろう。
結局、下山できたのは17時半。実は昼過ぎには下山できるだろうと踏んで、都内の友人宅に18時ごろ遊びに行く予定だった。見込み違いにもほどがある。