※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
白馬岳と並び、ちょくちょく山スキーのガイドブックに取り上げられる白馬鑓温泉。それなりに人気があるようだが、自分はまだ登ったことがない。ピークでない鑓温泉をゴールとするのは、登山としてちょっと物足りなく感じるのだ。だからといって白馬鑓ヶ岳まで登るのは大変そうで、実際、ガイドブックには1泊の行程で紹介されている。
ただ、ヤマレコなんかの記録を見ると、意外と白馬鑓ヶ岳まで日帰りで往復している人が多い。検討すると、自分の実力でも決して無理ではなさそうだ。
これまで5月後半は白馬岳に登ることを恒例としていたが、毎回それでは芸がないと思っていたので、この週末に登ってみることにする。
迷ったのは上り下りのコース。
白馬鑓温泉~大出原経由で往復するのが一般的だと思っていたが、調べると、大雪渓経由で登る人も多い。確かにそのほうが小日向コルからの下りがない分、累積の登りが少なくなる。
一方で白馬鑓温泉経由なら、少なくとも鑓温泉までなら登れるだろうから、その後で敗退しても一応は目的のコースを滑ることができる。
どちらにしようか迷ったが、途中敗退することはまずなかろうと、大雪渓経由で登ることにする。
下りは大出原~鑓温泉のほか、杓子沢も面白いらしい。ただ、杓子沢を滑ると鑓温泉には寄れなくなる。別に温泉に入りたいわけではないが、どんなところか一度は見てみたい。
ということで、下りは普通に大出原~鑓温泉ルートを滑ることにしよう。
ちなみにこの日は夏日の予報で、気温がかなり上がるらしい。上部の急斜面は湿雪スラフがちょっと怖く、そして下部はグダグダの腐れ雪に悩まされそう。あまりスキー向きの天気とはいえない。それでも天気は良いわけだから、登山としては十分楽しめるはずだ。
5:58 1233m 猿倉登山口駐車場。
まずはスキーを担いで林道を歩く。残雪状況は例年並み、もしくは若干多めというところ。日の当たらない場所はまだ雪が残っている。
長走沢の手前400m、15分ほど歩いたところで雪がつながるようになる。ここからシール登行。この時期としてはいいほうかもしれない。
長走沢もまだ埋まっており、板を外さずに通過できる。
6:57 1545m 白馬尻小屋。
この時期、小屋はまだ組み立て前。立地場所にベンガラでマーキングだけされ、資材を集積しつつあるところだ。
15分ほど登った先にケルンがあり(もちろんまだ埋まってる)、無雪期はそこがいわゆる「大雪渓入口」になるらしい。しかしこの時期は小屋のずっと手前、1500mくらいからすでに大雪渓の様相を呈している。
ここからはこの変化に乏しい雪渓をひたすら詰めるだけ。単調な登りが延々と続く。
左右の尾根からの雪崩はもうだいぶ落ちきっているようで、雪渓内のデブリもだいぶ均されている。途中、4月末の雪崩跡を通ったはずだが、どこがそうだったのか気づかなかったぐらいだ。
縦溝もほとんどなく、雪面は思った以上にフラット。これなら大雪渓を滑っても楽しめたかもしれない。
ちなみに雪崩で行方不明だった方はこの日の捜索で発見されたらしい。ご冥福をお祈りします。
8:24-8:32 葱平下2160m。
この辺りから傾斜が増すので、ここでアイゼンに換装。すでに階段状のトレースがあるので楽に登れる。
ただ、今日は途中2350m辺りで白馬岳への登山道を離れ、杓子岳コルに向かう必要がある。その先はトレースを期待できないと思っていたが、今日はこちらにも先行者がいて、浅いながらもステップが残っている。おかげで、さほど苦労せずに登ることができた。
9:46-9:52 白馬岳-杓子岳稜線2630m。
ここで稜線に到着。この先は杓子岳の西斜面に雪が残っているだけで、あとは夏道。アイゼンを外し、ザレた登山道を歩く。
登山道はきれいに整備されているので、普通なら歩きやすく感じるのだろう。しかし自分にとってはここからが問題。自分は足首が固いためか、このような足首を伸ばす形になるシンプルな坂道が苦手なのだ(シール登行時はヒールリフターがあるのでなんとか人並みに登れる)。テレマークシューズだとなおのこと。一気にペースが落ちる。
場合により杓子岳も登ろうかと考えていたが、全然そんな気になれず、西斜面をトラバース。この西斜面は雪が残っており、凍っているとかなり厄介らしい。ただ、今日は問題なし。いちおうアイゼンを付けたが、なくても大丈夫だっただろう。
トラバースを終えたところが杓子岳-鑓ヶ岳コル。杓子沢右俣の源頭に当たる。
前を歩いていた方はここでザックを下ろし、滑降準備をしている。確かにここからなら比較的傾斜が緩く、滑りやすそう。ピークハントにこだわらないなら、ここをゴールとするのもいいかもしれない。
自分は引き続き白馬鑓ヶ岳へ。本当に大変なのはここからだ。
苦手な夏道といっても、ここまではたいした登りがなくてまだ良かった。しかしこの先は、山頂まで標高差200m余りのザレた急坂が続く。ほとんど寝てないこともあって高山病のようになり、片頭痛もする。なかなか足が進まない。
11:37 2901m 白馬鑓ヶ岳。
やっと到着。久しぶりに心底バテた。片頭痛で食欲もなく、おにぎり一つ食べるのもやっとなぐらい。
こうなると、滑降コースも見直したほうがいいかもしれない。なにしろ予定していた鑓温泉コースの場合、小日向コルへの登り返しがある。標高差200m程度とはいえ、この体にはちょっと応える。一方で杓子沢ならその半分以下。今の状態でこの差は大きい。それに杓子沢は雪の状態が良く、快適に滑れそう。実際、山頂からドロップした人がいたが、スラフも流れずになかなか楽しそうだった。
ただ、休んでいる間にだいぶ体調は回復した。それに登り返しルートは雪が付いているだろうから、鑓ヶ岳直下のような苦労はしないはず。今後ここまで来ることはそうないだろうし、やはり定番の鑓温泉コースを滑っておくべきだろう。
12:21 滑降開始。
狭い稜線上をちょっとだけ滑り、南山稜を抜けたところで南東斜面にドロップ。
この斜面は傾斜がきつく、今日は気温も高いため、湿雪スラフを懸念していた。が、さほどのことはない。雪面は十分にきれいで、雪質的にも滑りやすい。大出原への広大な斜面を思う存分堪能できる。
多少残念なのは、フォールラインに沿ってずっと滑り続けられないこと。途中から少しずつ南側にトラバース気味に滑り、その先の枝尾根を越える必要がある。枝尾根は2500mぐらいから下で地肌が出ているので、その上で越えなければならないのだ。
とはいえこれだけ広大な斜面だと、ただトラバースしているだけでも気分が良い。正面の唐松岳に向かってどんどん滑っていく。
2540mで登山道のある枝尾根を越え、尾根南側の沢筋へ。ここからは湯ノ入沢出合までこの沢筋を滑ることになる。
沢の中はさすがに縦溝が目立つ。とはいえ柔らかめの滑りやすい雪質で、縦溝があるにも関わらず十分に楽しく滑れる。
ただ、片頭痛がまだ治まらず、縦溝を横断するときの振動が頭に響いてつらい。
2100mで沢が北東に向きを変えると、谷は一気に広がり、再び大出原のような広大な斜面となる。見晴らしも良くなり、小日向コルまでのルートが一望できるようになる。
そしてまっすぐ先には鑓温泉。当初、鑓温泉は沢からちょっと離れているので、沢筋を滑っていると見落としてしまうのではないかと懸念していた。しかし実際は遮るものは何もなく、その周りだけ雪が溶けているので見落としようがない。GPSに頼ることなく滑っていけるのであった。
12:52-12:57 2013m 白馬鑓温泉。
この時間なのでそこそこ人がいるだろうとは思っていたが、その予想を越える大賑わい。テント持参で水着に着替えているもの、素っ裸で堂々と入っているもの、靴だけ脱いで足湯を楽しんでいるもの、様々だ。
自分はもともと風呂に入る気はなかったので様子見だけ。湯ノ入沢に向け滑降を再開する。
下るにつれどんどん雪は荒れていく。ただ、懸念していたような腐れ雪ではなく、柔らかいながらも板がよく走る。これなら十分楽しめる。
13:10-13:17 1625m 湯ノ入沢。
ここでひとまず滑降終了。シールを付け、小日向コルへ登り返す。
疲れているのでさすがにペースは上がらない。ただ、白馬鑓ヶ岳へのザレた登山道に比べればはるかにマシ。シール登行であれば、ゆっくりではあっても着実に登っていける。山頂で懸念していたほどのことはなかった。
14:01-14:10 1823m 小日向のコル。
ここから最後の滑降。まずは猿倉台地に向け窪地を滑る。
地図で見た感じ、この斜面も十分に楽しめると思っていた。しかし雪はもうデコボコに荒れまくり、これまでのようには楽しめない。まぁ小石が落ちていない分、大雪渓よりマシではあるが。
1600m手前からはトラバース気味に滑り、中山沢左岸に出る。ここからはいわゆる猿倉台地の滑走だ。
傾斜は緩いが、この暑さ、この標高でも雪は腐っておらず、板がよく走る。若木がちょっと目立つものの、コントロールの利く雪質なので、それを避けながらの滑走もまた楽しい。
ただ、後半はシュプールを見かけなくなった。もしかしてみんな長走沢を滑っているのだろうか。たしかに往路で見たときは沢がまだ埋まっていたので、そちらのほうがスムーズに滑れたのかもしれない(ヤマレコの記録を見ると実際そうだったようだ)。
林道が近づくと雪はまばらになる。ヤブをかき分けながら強引に滑り続けるが、林道合流の100mほど手前で諦める。まぁ林道まであと僅かだし、登山道もある。さほど手間はかからない。
あとは板を付けたり外したりしながら、林道上をできる限り滑り続ける。駐車場まで半分ほど滑ることができた。
(2015/03/07)
いつも行っていた「ガーデンの湯」は閉店したらしく、代わりにこちらに。
八方尾根スキー場そばの温泉よりは多少すいているかと思ったが、スキーシーズン真っ只中の土曜夕方とあってさすがに大混雑。浮かれた若い団体さんたちに囲まれまったく落ち着けない。
浴槽は大きいが、半露天のものが一つあるだけ。ビニールカーテンで寒気を塞げるようになっているが、この日はもう夕方なのに全開で、やたら寒かった。
とはいえ泉質自体は良さそうなので、すいていればまぁ悪くはないのだろう。