※1 ... 休憩時間を除いた実移動速度
東北ツアーの2日目は岩木山。東西南北それぞれ山麓まで滑れる4つのコースがあるが、その中でも面白そうな長平コースと百沢コースの2本を滑ることにする。どちらもたいした登りなしで標高差1000m以上楽しめるという夢のようなコースである。
今回は車2台なので下山口に1台停めてもう1台で登山口へ、というところなのだが、2コース滑るとなると車の回収を含め計4回も8合目駐車場まで登らなければならない。おまけにこの道路は有料、1回の通行で1750円もかかる。ここはこの時期運行されるスキーバスを利用したほうが得策だ。
まずは車2台で長平コース下山口のナクア白神スキー場へ。聞き馴れない名前だが、要は旧鰺ヶ沢スキー場。コクドは例によって自然破壊だけしておいてブームが終わるやあっけなく撤退したようだ。
スキーバスの停留所はもっとも賑わっている辺りにあるはずだと、旧プリンスホテル側の端に車を停める。バス停もちょうど旧プリンスホテルの前に見つかる。
しかし、この辺りはさすがにほとんど雪がなく、はるか遠く、駐車場最奥のゲレンデにのみかすかに雪が付いている。たぶんあそこに滑り降りてくるのだろうが、駐車場内を歩くだけとはいえ、元コクドのスキー場ということもあって無駄に(?)広く、ここまで戻るのにそれなりに距離がある。最新のコース情報では滑降後の歩行0分と書いてあったのだが、まあこの程度は仕方ない。
――と思っていたのだが、実は駐車場最奥、ちょうど雪のあるゲレンデを滑り降りたところに臨時のバス停があるのであった。バスに乗って初めてわかったのでもはや遅い。
当初バスの乗客はダマと2人だけだったが、駐車場奥の臨時バス停、弥生コース、百沢コース下山口と、それぞれスキー客を拾って行く。板、ザックとも社内持ち込みのためスペースを取られ、百沢を過ぎるころはバスは結構いっぱいになる。
そんなこんなで1時間15分かけやっとスカイライン終点の岩木山8号目へ。ここから上はガスがかかり、おまけに風も非常に強い。まあ独立峰だし仕方ない。麓は晴天で、ちょっと降ればガスが晴れることもわかっているのでまあいいでしょう。
8号目駐車場からリフト1本乗って9号目へ。のろのろ運転で、とても寒い。
そしてリフトを降りると、、、辺りは完全に冬山の光景。地面は完全に凍りつき、アイゼン必携である。
入山準備をしていたところ、ビンディングが細引きを噛んでしまい(3ピンなのだ)、セットも開放もできなくなる。アイゼンの歯をドライバー代わりにしてなんとか事なきを得るが、この寒い中相当な時間を使ってしまった。
気を取り直して出発、はいいが、ガスで標識を探し出せず、どこに向かえばいいかわからない。方角はわかるのだが、辺り一面凍結した岩場や灌木帯なので、目的地に向かって一直線という訳にもいかない。他のパーティーは正面の岩山を登っており、他にルートも見当たらないので我々もそれに習うことにする。
岩山はところどころ氷結しており、アイゼンのない連中は尻込みしながら四つん這いで登っている。私もここに来るまではゲレンデの延長のように気軽に考えていたのだが、こんな調子では遭難者続出でもおかしくはない。まぁあまりにも距離が短いのでそんな心配もいらないようだが。
岩山といっても実は20mほどで、あとは視界のない烈風の尾根上を竹竿に導かれて進む。しかしGPSを見ると目的地は谷の向こうであり、登山道がどれだけ大回りしていようがたどり着きそうにない。途中分岐点もなかったし、どうやらスタート地点から間違ったようだ。
登って来た岩山を下り、再びリフトトップへ。ここから北東に延びるトラバース道を見つける。方角的に間違いはないようだ。今度の道は登りは少ないが(さきほどもちょっと登っただけだが)、こちらも岩や潅木を縫っての氷結した道が続き、こうも視界が悪いとスキー登山というより本当に冬山登山をしているようだ。
しかしまあ距離は短く、10分もかからずに岩木山本峰と長平コースとの分岐点に建つ大館鳳鳴ヒュッテに着く。当初は山頂から一気に滑り降りようと思っていたのだが、どのような斜面かわからないのにこうも視界が悪いとそういう気にもなれず、このままコース通りに長平コースに向かうことにする。
ところで長平コースはもう少し北側なのだが、地図上はここから右寄りに滑っていけば無理なく合流できそうに見える。そこでシールをはずし、滑降開始。
が、それは早計だった。岩や灌木の斜面が続き、思った方向に滑れない。いや、実は滑れるのかもしれないが、この視界ではよくわからず、誘導の竹竿を離れて行動する気になれない。結局板を手に持って、アイゼンを外したまま氷結した斜面を歩く羽目になった。
やがて灌木が減り、すっきりしたオープンバーンが現れる。ここからが本当の滑降ポイントのようだ。
11:20 滑降開始。ガスで互いを見失わないようピッチを短く切り慎重に滑る。固めのザラメ雪で非常に滑りやすい。たぶん景色もいいのだろし、晴れていたら最高の斜面なのだろう。
もともとガスは山頂付近にかかっているだけなので、ちょっと下ると視界は良くなり、やがて完全に晴れあがる。西法寺森で板をはずして1288m峰へ多少登り返し、第2ステージへ。ここからしばらくは尾根上のコースとなる。雪は柔らかくなり多少抵抗は出てくるが、全般的にはザラメ雪でまあまあ滑りやすい。
とはいえ、もはや上部のような楽しさを感じることはない。コース自体は当初懸念していたようにゲレンデ状態に整備されている訳ではなく、あくまで自然そのままなのだが、まあ悪くないという程度で、さほど興に乗れるようなものではない。まあほとんど登りなしでこれだけ滑れるわけなので、これで文句をいうのは贅沢というものなのだろうが。
1017m地点の台地を過ぎ大鳴沢への斜面を北西にトラバースすると、ナクアスキー場最上部に合流。ここからは完全にゲレンデだ。古いルート図ではスキー場なんてなく一面の牧場が広がっており、ずっとオフピステを滑れたようなのでちょっと残念。
あとは営業終了して誰もいないスキー場をひたすら滑るだけ。下部は雪は少ないが、朝見たゲレンデだけは下まで雪が付いているので、問題なく下まで滑りきることができた。まあ最後に広い駐車場を端から端まで歩くのは余分だったが。
続いて百沢コースへ。車1台を百沢スキー場に置き、もう1台で岩木山スカイラインへ向かうが、ここで予定変更。麓の嶽温泉に車を置いてスキーバスで8合目まで登ることにする。その方が下山後に車を取りに戻る面倒がないし、料金だってよほど安いのだ。
嶽温泉からのバスの本数は多いとはいえ、それでも1時間に1本。次のバス運行時刻が迫ってる。嶽温泉手前の観光施設の駐車場に車を止め、走ってギリギリ間にあった。
さて、8号目からリフトに乗ろうとするが、強風のため運行停止しているではないか。時間はもう14時だが、やむなくリフトトップまで歩くことにする。あわててバスに乗ったせいでダマはアイゼンを忘れてきて、苦労してなんとかリフトトップまでたどり着く。ちなみに私はあわてていた訳ではないがアウターを忘れた。幸い朝ほど酷い天気ではないので、なんとか耐えられる。
リフトトップからは、朝間違えたコースをたどる。さすがにこの時間でリフトも動いていないとなると、他に人はいない。ガスは午前中より薄く、ときおり山頂も見え隠れするが、風は相変わらず酷く、切れ間を狙って歩く。
朝と同様誘導の竹竿に沿って歩くが、やがて竹竿が見当たらなくなる。ガスの中辺りを偵察すると、沢に向かってスキーのシュプールが付いてるのに気づく。どうやらここが滑降ポイントのようだ。ちなみにあとで地図を確認したところ、ここまで進まずともどこからでも左の沢に滑り込めたようだ。
ガスは晴れそうで晴れない。ちょっと下ればガスの下に出て一気に見晴らしは良くなるのだろうが、せっかくの無木立の大斜面、視界のある時に滑りたかった。
やがてガスの下に出ると……
おーなんだこれは。緑鮮やかな津軽の大地が視界一杯に広がる。独立峰の滑降なのでこのように雪のない大地が前方に拡がるのは当たり前なのだが、このような爽快感は味わったことがない。視界を上げて滑るとあまりの雄大さに遠近感が狂い、自分がどれだけのスピードで滑っているのかわからなくなる。この風景を滑れただけでも、わざわざ津軽まで来たかいがあったというものだ。
しばらくこのゲレンデのような、しかし爽快感はゲレンデとは比べものにならない大斜面を滑ると、やがて木がポツポツ現われ始め、尾根上の滑降となる。雪も重くなってくるが、これはこれで山スキーっぽくて楽しい。これは期待していた以上のコースだ。
下るにしたがってさすがに雪は少なくなっていき、木々も多くなる。雪のついた箇所を樹間を縫って滑るこの感じ、あたかもGWの笹ヶ峰のようだ。
15:30 630m地点でいったん雪は途切れ、あとは雪を拾ってスキーを脱着を繰り返してかろうじて滑っていくが、410m地点でこれ以上は無理だ、と滑降終了。
事前に調べたコース情報では歩き30~40分とあったのでまあ良いのだが、スキー場内まで滑ってあとは整地されたゲレンデ内を歩くだけと思っていただけに、登山道ひとつない山の中で終了というのは想定外。薮こぎこそなかったが、ゲレンデとつながる林道に出るまで苔むした山の中を歩くこととなった。
15分程で駐車場へ出て、あとは飯&温泉に浸かりに一路嶽温泉へ向かう。